【2023世界選トラックがんばれ】太田りゆインタビュー『壁を越える方法、自信をつける大事な時間』

【2023世界選トラックがんばれ】太田りゆインタビュー『壁を乗り越える方法、自信をつける大事な時間』


(奥隅マッサー、太田/2023全日本選手権トラック)

太田りゆは2018年からチームブリヂストンサイクリングの一員です。
チームブリヂストンのアスリートアンバサダーも務めています。

一見華やかな彼女の言動に、時に誤解を抱く方もいると聞きますが、
チーム選手として見る彼女の本質は、完全に努力型のアスリートです。

2018年に、陸上選手としての体力からガールズケイリン選手となった太田は、その才能を見込まれてのチーム入り。
そこからオリンピック出場を目指すアスリートとなりましたが、その後の彼女は何度も壁に当たってきました。

才能を引き出され、自分でも伸ばしながらも達成してきた数多くの輝かしい成績の裏には、悔しさを呑み込んだ戦いも多くありました。

しかし自分自身であることを忘れず、その芯の強さを保ちながら、オリンピックでメダルを取る夢に向かって走り続けています。

その姿勢に女性ファンも多いと聞く太田に、彼女が2018年から変わらず行ってきている壁の乗り越え方を聞きました。
そして彼女が最も大事にする、自信をつけるための時間....つまり身だしなみ、彼女のメイクのことについても聞きました。

彼女が表に出す華やかさは、彼女が自分自身をアスリートとして力強く保つための、モチベーションの作り方だからです。



(2023全日本選手権トラック)

ーー太田選手は、チームの母体であるブリヂストンサイクル、その本社のある埼玉県上尾市の出身です。自身の地元がチームの地元であることで、何か特別な想いや繋がりなどを感じたことはありますか?


ブリヂストンサイクルの社員の方に、直接ではないんですが中学校や高校の先輩がいますし、友達の彼氏がいたりもします(笑)。
やっぱり地元感はありますね。 

この間の全日本選手権のときも、たくさんの方に応援に来ていただいたのですが、あの時も「上尾の太田選手」だって、みなさんが声をかけてくれました。

ちっちゃい頃から上尾といえばブリヂストン、というか、そういう環境の中で育ってきました。
小学校の社会科見学もブリヂストンサイクルの工場見学だったりする、子供の時からそうだったので。

自分が大人になってチームに加入するなんて、ましてプロのサイクリストになることは想像してなかったんですけど。
まさか、その地元の企業に応援してもらえるなんてこと思ってもいなくて。

私が子供の頃から使っていた通りに、本当に『BS通り』っていう名前がついていて、その看板が並んでるんですよ。
実家に戻った時は、上尾でロード乗ることもあるので、嬉しくて看板と写真を撮ってみたりとか、上尾本社の前で写真を撮ったりだとか(笑)。
不思議なつながりだな、というふうにも、いまさらながら思います。 


(2023全日本選手権トラック)

ーー今年はスプリントで飛躍、という目標を、まずはアジアチャンプで証明した太田選手。スプリントで強くなる、という決断に至るまでに、転換ポイントなどがあったのですか?


一番大きかったのは、東京2020オリンピックに出場できなかったことです。

日本は、ケイリンでは出場枠は取れたんです。ただ、スプリントでは取れなかったから、ひとりしか出られなかった。
あの時、スプリントでも枠が取れていれば、国内選考もなく、2人が出られていた。

スプリントは、1対1の対戦で、強いものが勝つという競技です。
今となってはレースの仕方を学んだので、200mでの0.2秒ぐらいのタイム差なら、やり方次第で勝てるかもしれません。
ただ当時は、国際大会では1/16決勝を突破することもできない、むしろどうやって勝っていいのかわからず、勝つイメージすらありませんでした。

ですから、やっぱりオリンピックに出るなら、スプリントもできなきゃダメだと思ったのが大きかったですね。


(2023全日本選手権トラック)

ーースプリントの予選である200mフライングタイムトライアル(200mハロン)のタイムで太田選手が記録した、日本記録の10秒596。これは世界トップの基準です。ここに来るまでに、最も大きかった壁はなんですか?


現時点でぶつかっている壁は、1/4決勝を勝ち上がることです。

トップ8には、確実にここ何レースか入っているので、 その先のトップ4に入るところで足踏みしているのかなっていう感じがしています。

2023年に出たタイムでは、選手では7位、タイムのみでは11位という

今年に入って、200mで10秒6を超えた選手では、私のタイムの上には7名の選手がいます。
これは、トップ4のために戦って、勝ち上がれなかったメンバーが私の上にいるという状況です。
ただそのメンバーの中に私も入っているので、今の私には「意味がわからないほど遠くにはいない」っていうのを、感じています。

ただそのトップ4に入るところが、今、現実的にすごく大きな壁だなと感じています。
でも、そのランキングのトップにいる選手に、対戦では私、1回勝ったことがあるんですよ! 
だから今、その壁の頂上に、手をかけてぶら下がっているという状態ですね(笑)。


(2023全日本選手権トラック)

ーー太田選手はこれまで、現状をノートに記録し、それを一つ一つ克服してきた、と聞いています。太田選手ならではの「壁を越える方法」はどのようなものですか?


今も携帯のメモ帳にいろんなことを残しています。
200mハロンのタイムは、もう何年も前から分かりやすく上からタイムを見られるように、メモに残してあります。

日付、どこで走ったか、ギア比などを全部記録して、毎回100mの入りと200mの入りのタイムを、スライドすれば、何年も連続で見れるような形にしています。少しずつ良くなっているんですけど。

選手って、結構自分のダメだったことばかりを見がちだと思うんです。
もちろん直さなきゃいけないことはありますけれど、ここもよかったよねっていうところも必ず見据えて。

ただダメだっただけで終わらせない。ここはよかったから、もうちょっとこうしてみよう、というのをやっています。
それを練習でやってみる。練習だからダメでもいい、の繰り返しです。

ただ、その本番の前には、「確実に今回はこれで行くんだ」っていうものを心に決めて、逆に迷うことなくやる。
その繰り返しを、何年も何年もやっています。


(2023全日本選手権トラック)

ーーチーム入りから2018年から東京2020オリンピックまでの太田選手と、東京2020以降から現在までの太田選手を比べると、何が大きく違いますか?


言葉にするのは難しいんですけど。。。「明確さ」っていうものが違うかなと思いますね。

東京2020オリンピックまでの時は、やっぱり本当に、自転車に対して素人の部分もあったなと思うんですよ。
日本代表になったのは、自転車に乗り初めて半年ぐらいでしたし。

自転車に乗って半年の子が、そこから突然日本代表になって、アスリートになって。それは環境が変わりすぎですよね。

もちろんオリンピックを目指すって私の中では思っていたし、環境もそうさせてくれた。みんなが私に期待もしてくれていました。

でも振り返ると、その自分に自分が付いていけてない部分があったかもしれません。
オリンピックを目指していたのは本気だったけれども「本当にできるの?」って迷っている自分もいたと思います。

ですが東京2020が終わってからの今は、本当にプロとして、そして日本代表として自覚を持てていますし、迷いもない。 自分に自信もある。

その「明確さ」が違うかな、と思っています。


(2023全日本選手権トラック)

ーー大事な試合の日にこそ、太田選手はしっかりとメイクをして臨むと聞いています。その時は、どんな気持ちでメイクを行いますか? 


私は『緊張のルーティン』って言ってるんですけど、レース前には緊張するんですよ、必ず。

まあ、寝る前から緊張しますよね。緊張しながら眠って、朝起きて、今日に控えたレースの緊張があって。
のどを通らない中、無理やり朝ごはんを入れて。これもルーティンで絶対そうなんで、それは仕方ないことで。

そこからお化粧するんですけど。朝が早くても、集合がゆっくりでも。 メイクする時間は、確実に一時間ぐらいは取っています。

ゆっくり寝ろよって言われるかもしれませんが、 これは私にとってはすごく重要な時間。
緊張しながら、震える手でメイクをするんですね。これもいつものことなんです。

なんですけど、すごく眉毛が綺麗に描けたとか、アイラインが綺麗に引けたとか。
それだけでもう、その日の私のモチベーションは大きくなるんですよ。本当にそうなんです。

「今日は眉毛が綺麗に描けたから、アイラインが綺麗に描けたから、『今日の私は強い、かわいい、美しい!』」
それだけで、私はちょっとガンバレるんです。
 
ちょっとの自己満足ですけど、これでだいぶ成績が、少なくとも気持ちは大きく変わるんで、これは大事な時間にしていますね。

あと、スプリントは対戦が何度も続くんですけど、もうヘルメットかぶった状態で、口紅を塗り直したりもしてます。
8回も対戦すると、もうドリンクやジェルとかで、唇はベタベタで、口紅なんて落ちちゃってるんで。
口しか見えないあの時に、その見えるところを、いかに綺麗に保つかっていう。 

こういうメイクをしたら落ちないかなとか、それはもう毎日の練習の日に『練習』してるので。それこそメイクの練習も兼ねるぐらいに。
その、一番ベストな状態で臨めるメイクを、道具だったり、やり方とかで研究してやってますよ。

ヨレヨレの状態でも、さっと拭えば綺麗に取れる、っていう、そういう化粧品を選んでます!
今、私、ずいぶん語ってますよね(笑)。 


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