独学で掴んだ専属メカニック。厚い信頼、そして技術でチームを勝利に導く【早川裕紀インタビュー】

自転車競技のチームに欠かせない存在がメカニック(整備士)。

プロの選手たちは自転車に詳しいですし、洗車や基本的なメンテナンスは自分で行うことができますが、試合前の大事なメンテナンスや細かい調整などは自転車整備のプロである専任のメカニックがいるんです。

同じパーツを使用していても、プロのメカニックに整備してもらうと、自分で整備するよりも、自転車は速く前に進みます。

また、レース中にトラブルが発生した時、即座に対応しその場で修理などをするのもメカニックの仕事です。

現在、Team Bridgestone Cyclingには早川裕紀メカニックがチーム専属として所属しています。

大学時代から独学でメカニックを勉強していたと話してくれた早川メカ。

チーム専属メカニックとしての仕事内容や将来の夢について聞いてきました。

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----初めに、メカニックを志したきっかけとなったことを教えてください。

早川メカ「高校から自転車競技の選手としてスタートし、大学に進学しました。大学時代も自転車部に所属して二年生まで選手として活動していたのですが、当時の先輩にメカニックを担当している先輩がいたので、その方のお手伝いもしていました。その後、先輩が卒業されたのと同時に僕も選手をやめまして、大学3年からはメカニック一本で活動していました。」

----メカニックになることを決意したターニングポイントとは?

早川メカ「選手の時代はまったく強くなくて、自分は何もできてないなって感じていました。そんな時に、その先輩がメカニックとしてチームの中でとても必要な存在であり、そんな姿を見て、自分もそこに価値を見出せました。

僕は元々自転車をいじることも好きでしたし、メカニックであれば今よりもっとチームへ貢献できるんじゃないかなと思い始めたのがきっかけですね。そこからご縁があって、Team Bridgestone Cyclingからオファーを頂きました。」

自転車ショップなどの勤務経験も一切ないのに、学生時代から独学でメカニックについて勉強し経験を重ね、トップ選手が数多く所属するTeam Bridgestone Cyclingにプロの専任メカニックとして迎え入れられたことに、正直驚きを隠せませんでした...!

それほどまでに早川メカが優秀で、将来を期待されていることが伝わってきます。

早川メカは日大出身なのですが、Team Bridgestone Cycling選手は日大出身者が多く、彼らとは先輩後輩同士でもあるんですね。

高速で疾走する自転車競技。

その速度は時速50kmから、下り坂ともなると時速80kmにも及びます。

そのため選手は、信頼しているメカニックが整備をしてくれているバイクでないと、とても怖くて安心して乗ることができません。

そのため技術面でも信頼され、先輩後輩として精神面でも選手をしっかりサポートできる早川メカニックは、チームのなかでとても大きな、そして大切な存在です。

−−メカニックとして、普段はどんなお仕事をしているのですか?

早川メカ「三島のクラブハウスで、毎日機材の調整をしたり、作業をしたりしています。選手の試合前やチーム遠征前であれば、移動時の荷造りや自転車のメンテナンスを念入りに行っています。

普通の日は、出社してメール確認などの事務作業を朝に済ませて、午前中から整備などに取りかかります。午後3時を過ぎると、選手が練習を終えてクラブハウスに戻ってくるので、そこから夕方まで選手のバイクのメンテナンスなどをして、一日を終えます。

試合前は、洗車や消耗品交換をしてメンテナンス済みの各選手のバイク+人数分の予備のバイク、机、椅子、ピット内で必要となる自分の工具、コンプレッサーなどを車に積み込みます。出場人数が多いレースだと、持っていく機材も多くなるので、一番大きいハイエースがパンパンになってしまうほど積んでいますね。」

−−消耗品の交換とは具体的にどんなものがあるのですか?

早川メカ「チェーンやブレーキシュー、BB、変速機、バーテープなど色々あります。

例えばうちの選手のバイクに使用しているチェーンは交換目安が3000kmなので、練習のペースから計算すると、大体1ヶ月〜1ヶ月半に一度の頻度で交換しています。

BBは触った時に抵抗や違和感があれば交換するようにしているので、半年くらい保つこともありますが、2ヶ月くらいで交換するケースもあります。」

−−なるほど...そんなにたくさん点検項目があって、チーム全員のバイクをお一人で整備するのはとても大変ではないのですか?

早川メカ「確かにプレッシャーもありますが、宮崎監督も一緒に作業をしていただくことが多く、そこで沢山のアドバイスをいただいたり、違う視点からの意見を教えてくださるので、2人で作業をしているイメージです。

また選手は自宅や練習拠点で自ら洗車をしたり、基本的なメンテナンスを済ませていることが多いので、僕が毎日全員分洗車しているということはありません。

なので選手が乗っていて、何か違和感があるなと感じたらすぐに僕の所へ持ってきて、見せてくれるというのが基本の流れですね。

これら全部を自分一人でとなると大変ですが、皆の協力があるからこそ、忙しいながらもこなせています。」

−−メカニックとしての苦労はありますか?

早川メカ「モデルや部品が変われば、整備方法も当然変わってきますので、いつも勉強が欠かせません。また、バイクのコンディションを完璧にし、一つのミスもしていないことが常に求められますので、一瞬たりとも気が抜けません。自分のミスのせいで、レースに負けてしまうことも十分にありえる訳なので。

ですが、ほとんどの選手がほぼ同じ部品を使用している中で、自分の整備によってどこまでバイクの状態を高められるかがメカニックとしての腕の見せ所なので、日々が工夫合戦ですが、それがとても楽しいです。」

早川メカニックは、選手たちが午後の練習を終えクラブハウスに戻ってくると、バイクの状態などを選手に確認していると話していましたが、選手とのこういう日々のコミュニケーションの積み重ねによって、彼らから厚い信頼を得ることができているのだな、と感じました。

そして彼らの厚い信頼関係が、チームへ勝利として還元されてくるのでしょうね。

−−試合の時は、どうやって選手をフォローしているのですか?

早川メカ「無線で選手とレース中もやり取りしているので、何か問題があればフィードゾーンで修理などを行います。もちろん、何も機材トラブルが無ければレース中にバイクに触れることはありません。」

−−こんなことを聞いてしまっていいのかわかりませんが...試合時に、ライバルチームのメカニックの技術を偵察したりすることはありますか?

早川メカ「はい、常に観察はしていますね。他チームの方といっても、知り合いの方が多いので、自分から話しかけたり、色々と情報を共有するなどしています。

やはり、時代が変わる中で技術も常に進化していますから、しっかりアンテナを張って自分から情報をキャッチすることが重要だと考えています。

今は海外渡航が厳しいのでなかなか出来ませんが、海外遠征に帯同できたら、高度な技術を持つ外国チームのメカニックをしっかり自分の目で見て、沢山の知識を吸収したいですね。」

−−レースでチームが勝利した時は、どんな気持ちですか?

早川メカ「やっぱりもう、率直にうれしいです!チームとして数多くの勝利を掴むことを目標にやっていますし、チーム一丸となって取れた勝利として、自分もしっかり貢献できていると感じますね。」

−−最後に、早川メカの今後の目標や夢を教えてください!

早川メカ「今期の目標としては、チームとしてもう既に2勝できているのはとてもすごいことだと認識していますし、今のチームであれば今後の大きな大会でもまだまだ優勝を取りにいくことが可能なチームなので、残りの試合もメカニックという立場から、しっかりチームを支え、更なる勝利に貢献したいです。

そして今後の夢は、更に経験値と技量を身につけてパリ五輪へメカニックとして帯同したいです。今はJCF(日本自転車競技連盟)のクラブハウスでもメカニックとしての修行をさせていただいているので、Team Bridgestone CyclingでもJCFでも技術を磨き、自分の夢に向けて頑張ります!」

text:Kumi.Fujita

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