1時間にわたる限界への挑戦【今村駿介のJCFアワーレコードチャレンジ】

11月23日(月・祝)、日本自転車競技連盟公認(JCF)のチャレンジとしては日本初となるアワーレコードに、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの今村駿介が挑みました。
結果は、各自転車メディアでも報じられているとおり52.468kmと、これまでアワーレコードに挑戦してきた海外のトップ選手の記録と比べても、遜色のない好記録となりました。

アンカーブログでは、今村のコメントとともに挑戦を振り返り、翌日に三島のチームクラブハウスにて行ったインタビューの模様もお届けします。

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ひどい記録になっても、とりあえずは日本記録

アワーレコードは、その名のとおり1時間でバンクをどれだけ走れるかを競う種目。その歴史は古く、1893年の記録がUCI公認としては最も古い記録として残っています(ちなみに記録は35.325km)。

今回のアワーレコードは、日本ナショナルチーム中長距離のクレイグコーチから発案されました。

「自分が、教育実習のためト
ラックの全日本選手権に出場できないことが決まっていたのですが、ある日突然『全日本の代わりにアワーレコードをやってみるか?』と、コーチから連絡がきました。
日本でアワーレコードなんて聞いたことなかったので、最初は『間違えてメール送ってきたのかな?』と思いました(笑)。海外では挑戦する選手も多く、気にはなっていたので、『興味はあるよ』と答えて、そこから少しずつ空力のテストや自分の出せるパワーを計算して、目標を定めていった感じです」

挑戦の舞台は、伊豆ベロドローム。スタート時間は10時30分。準備中は時折り笑顔を見せ、リラックスした様子の今村でしたが、スタートの直前になると一気に集中力を高めていきます。

たった一人のために整えられた、日本で初めての舞台。しかも東京2020オリンピックの会場での挑戦に、緊張はなかったのか、とレース後に尋ねられた今村は、
「前半つっこみ過ぎなければ、走りきれるとは思っていました。ひどい記録になっても、とりあえずは日本記録なんだと、割り切った気持ちもありました(笑)」と振り返っています。

DSC_7782.jpgスタート前、クレイグコーチから最後のアドバイスに耳を傾けるDSC_7806.jpgスタートに向けて集中力を高める今村

52kmを目標にアワーレコードがスタート

今回のアワーレコードでは、52kmを目標にしていた今村。

「練習では、30分までしか走っていなかったのですが、その数値から52kmを目標にしようとクレイグコーチと話していました」

目標である52kmに向けて、順調にペースを刻みながら周回を重ねて行きます。

「目標を達成するために、1周のペースを17秒2~3で刻もうと、クレイグコーチと決めていました。30分までは練習でも経験したことのある距離なので、ペースを維持しつつ、なるべく余裕を持って走りたいなと考えていました。そうすれば後半もしっかりと走りきれると思っていたので。自分のなかでは、少しセーブ気味で走っていたのですが、それでも身体の色々な箇所に不具合や疲労を感じ始めていました。自分に『あと30分あるんだ』と言い聞かせていました」

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10時30分、1時間の限界への挑戦がスタートDSC_7848.jpg安定したペースで周回を重ねるDSC_8130.jpg「頭を下げ、肩を意識して、空気抵抗の低減のみを考えていた」と今村が語るフォーム

何がなんでも気持ちでは負けちゃいけない

前半30分をほぼ予定通りのペースで走り切った今村。未知の世界であった、後半の30分も着実に周回を重ねます。

「スプリンターレーンの黒いラインだけを見て、ひたすらペースをキープしながら走っていました。事前にクレイグコーチが、設定ラップよりも速く走れば、コース上を前方へ移動していくと話していて、徐々に前へ移動していたので、順調に走れているなと。かなりキツかったのですが、僕だけのためにスタッフやメディアのみなさんが集まってくれていたので、何がなんでも気持ちでは負けちゃいけないと思いながら走っていました。悔しい姿を見せてしまうのだけは嫌だったので」

チャレンジ終盤、52kmを上回ることが確定的になったあたりから更なる記録を狙いペースアップをしていきます。

「最後は追い込めると分かっていました。ただ水分がだいぶ抜けていて、攣る可能性があったので、どこから踏み始めようかとは、つねに考えていました。最後にスピードを上げつつ終わることができてよかったです」

最終的に250mの伊豆ベロドロームをほぼ210周、52.468kmで今回の挑戦を終えました。

今回の挑戦を振り返り、今村はメディア陣に向けて、こう語りました。

「アワーレコードは、やっぱりキツいんだなと。取り組んでみたからこそ、もう1回チャレンジしてみたいという気持ちにもなりました。30分走をやればなんとなく感覚は分かるので、終えてみてアワーレコードのイメージがすごく変わったということはないですが、計画していただいた大きなイベントをクリアできたこと、今日に照準を合わせて、しっかり自分のパフォーマンス発揮を出せたことは、すごく自信につながりました。

チームメイトには窪木さんや近谷さんなど個人タイムトライアルが強い選手がいるので、挑戦したらかなり良い記録を出されると思います。誰かに今回の記録を越されたら、良い目標になるので、最初の日本記録保持者として、さらに記録を塗り替えていきたいですね。チームメイトが挑戦することがあったら、経験者として『アワーレコードはキツイよ』と教えてあげようと思います(笑)」

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クレイグコーチがコース脇から今村をサポートするDSC_8199.jpgTEAM BRIDGESTONE Cyclingの近谷涼、橋本英也も応援に駆けつけ、檄を飛ばすDSC_8359.jpgサプライズで、クレイグコーチからシャンパンファイトのプレゼント

自分のパフォーマンスを示せて良かった

翌日、チームミーティングのため三島のチームクラブハウスに来た今村に改めてインタビューを実施しました。挑戦から1日が経過して、心境に変化はあったのでしょうか。

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アワーレコード直後はわりと元気そうな姿でしたが、1日経って疲労はどうですか?

今村:終わって1,2時間はそこまで疲労を感じていなくて、回復能力も高いほうなので、こんなものなのかなと思っていたのですが、時間が経つにつれてどんどんキツくなってきて......。昨晩は寝付けないぐらいダメージを感じました。脚も痛いし、首も痛いし......。

やはりキツいのですね......。まわりの反響はどうでしたか?

今村:自分のSNSで今回の結果をアップしたら、かなり反響が大きくてめちゃくちゃ嬉しかったですね。海外からも結構リアクションがありました。

アンカーのトラックフレームについても聞きたいのですが、アワーレコードでの性能はどうでしたか?

今村:やはりマシンが一番重要なので、助けられた部分は大きいと思います。SNSでも、空力性能が高そうなバイクだと話題になってました。あとはアワーレコード用にコックピットまわりを煮詰めていければ、もっと良くなってきそうですね。今回、空力を考えてこれまで使用していたフレームより2サイズ大きいものに乗りました。はじめはその方が空力が良いと言われても疑心暗鬼で、嫌々だったのですが、乗ってみたら結構よかったですね(笑)。

またチャレンジしたいとの言葉もありましたが、どれぐらいまで記録を伸ばせそうですか?

今村:海外選手が行っているような高地トレーニング等の準備がしっかりできれば、現時点で、もう1kmぐらいはいけると思います。

今回はこのような状況なので無観客でしたが、現地で応援したかったという声もありました。

今村:次回挑戦するときは、観戦もできるようになっているといいですね。盛り上がってくれたら、やはり嬉しいですし、力になります。

最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

今村:少なからずみなさんが期待してくれていることは感じていました。観客こそいませんでしたが、『ここで諦めたら、みなさんにがっかりされてしまう』と自分を奮い立たせて、最後まで頑張ることができました。終わってみて周りから良い記録だったと言われて嬉しかったですし、自分のパフォーマンスを示せたことは良かったと思います。これで僕もオフに入りますが、また来シーズンも応援をよろしくお願いします。

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