確実に近づいた世界との差【ネイションズカップ第一戦グラスゴー 選手インタビュー】

4月21日〜24日に、イギリスのグラスゴーで開催されたネイションズカップ第一戦。

ネイションズカップはオリンピック出場に必要なUCIポイントの配分が高いため、重要度が高くハイレベルな国際大会です。

今回はTEAM BEIDGESTONE Cyclingとナショナルチームの2チームから中距離チームは窪木一茂選手、橋本英也選手、今村駿介選手、兒島直樹選手の4名、短距離チームから新山響平選手の計5名が派遣されました。

窪木選手・今村選手ペアのマディソンで初の快挙となる銀メダルを獲得や、前哨戦となったINTERNATIONAL TRACK MEETING BELGIUMでは今村選手のエリミネーション優勝と、チーム一同歓喜に沸き、また日本と世界との距離が確実に縮まっていることを証明してくれました。

これから続くパリ2024オリンピックへのポイント獲得争いにおいて大きな意味を持つ初戦で良いスタートを切ることが出来ました。

競輪出走のため新山選手へのインタビューが叶いませんでしたが、今回は窪木選手・橋本選手・今村選手・兒島選手の4人へ帰国後行ったインタビューの様子をご紹介します。

【大会情報】

2022 The Tissot UCI Track Nations Cup - Glasgow

日程:4月21日〜24日

場所:Sir Chris Hoy Velodrome(イギリス・グラスゴー)

出場選手:窪木一茂・橋本英也・今村駿介・兒島直樹・新山響平

大会詳細:https://www.uci.org/race-hub/2022-uci-track-nations-cup-glasgow/5Lcm4cQiB2J8EOtfIKSTCt

大会映像:https://tissottracktv.uci.org/

「一番欲しかったネイションズカップでのメダル獲得。オリンピックに向けての良いスタートが切れた」窪木一茂選手

ーー窪木選手お疲れ様でした。マディソンでは銀メダルおめでとうございます!今回の遠征を振り返っていかがですか?

ベルギーの成績もよかったですし、一番欲しかったネイションズカップでのメダルを獲ることができて嬉しかったです。

ーーマディソンは、どんな作戦で臨んだのですか?

100周切ってから勝負していこうというのがコーチからの作戦だったので、僕らもそれを念頭に置いて走りました。

ーー作戦については今村選手とコミュニケーションを取っていたのですか?

そうですね。いつも一緒に練習をしていますし、2019〜2020年のワールドカップでは一緒に走っていたこともあります。その時の最高の順位が9位だったので今回はそこを上回る順位を獲りたいということは前々から話していたので、今回2位という成績を残せたのは本当に良かったです。

ーー9位から2位と大幅に順位を上げることができた要因はどこにあったのでしょうか?

世界の競合チームも多く揃ってのレースでしたし、マディソンという競技はヨーロッパでは花形の種目でお客さんからも人気のある種目。加えてイギリスとでの開催の中での2位だったので自分達も驚きましたし、周りのみんなも驚いたかなと思います。

要因は...もちろん普段の練習を一生懸命やってきたというのはありますけれど今村選手と二人で分析をし合っていたのが大きいかと思います。

ーーどんな分析ですか?

交代の仕方や交代のタイミングを事前に話し合ったりという自分達の分析もですが、強い国がどこで、注意すべき選手は誰なのか、など他のチームの分析もしていました。

ーー交代の時も今村選手とはよく話していたのですか?

そうですね、きつい時は「ちょっと休ませて」などと声を掛け合いながら走っていました。

ーー今回の結果で、日本の力が世界に通用することを証明してくれた大会になったのではと思います。

そうですね。終わってからも二人で振り返りをしましたが、このメンバーの中で、たとえ主力選手がトラック練習をあまりできていない状態だったとしても、2位という成績を取れたことは自信になりました。

実際に走ってみても、引けを取らないスピードだったのでオリンピックに向けての良いスタートを切れたかなと思います。

ーー窪木選手個人のコンディションとしては良い仕上がりだったのですか?

現状では良いコンディションでしたが、これからもっと上げられるかなと思っています。

ーー窪木選手はチームパーシュートの日本記録も持っていますが、当時と比べて今回の4人での走りの手応えはどうでしたか?

日本新記録の時は、ひたすら練習して一杯一杯の中で出せたタイムでしたが、今回はチームパーシュートにほとんど力を入れていない中で走って、3分54秒というタイムが出せたので個々人の成長を感じられました。

日本新記録を出した2年前と比べて、全体的なレベルが上がっているように感じます。

ーーすぐにネイションズカップの第二戦のカナダに向かわれると思いますが、調子はいかがですか?

帰国後にワクチンを打った関係もあり少し体調を崩してしまったのですが、まだ数日ありますし、レースまでにはしっかりと調整して行きたいと思います。

まだ出場種目は決まっていないのですが、何に出ることになってもしっかりと準備はできています。ペアで出る場合はマディソンなので迷惑をかけないように頑張りたいなと思います。

ーー第二戦の意気込み

第一戦のグラスゴーではマディソンでメダルを獲ることができたので、次のミルトンでもマディソンでメダルを目指したいですし、個人種目でも表彰台を目指して行きたいと思います。

今回はブリヂストンとナショナルチームの2つから派遣していただけて、参加できて本当に良かったと感謝しています。今回は本当に実りのある遠征だったので、次も応援してもらえるように頑張ります。

ーーミルトンでも応援しています!ありがとうございました。

<リザルト>

マディソン: 2位

エリミネーション: 4位

チームパーシュート: 6位(一回戦敗退)

「全力を出し切って負けたので、このままではまずいと自分に喝を入れられた」橋本英也選手

ーー世界選手権ぶりの国際大会への参加でしたがいかがでしたか?

ヨーロッパでのレースはやはりレベルが高くて洗礼を受けました。自分としても収穫のあったレースだったと思います。

ーー今回の一番の収穫は何でしたか?

エリミネーションで出し切った状態での5位だったことです。普段のエリミネーションでは体力が残って終わることが多かったのですが、今回は全力を出し切りました。

体力負けで終えられたので、このままではまずいと自分に刺激を入れることができました。

ーー今回のネイションズカップは楽しめましたか?

楽しいにも、"うまく走れて勝って楽しい"と、"世界の競合メンバーの中で走ることができて楽しい"と、両面があると思いますが、今回は後者の面で楽しかったです!

ーー観客がいるレースだったことはモチベーションになりましたか?

そうですね。マディソンの予選でラップした時には観客が拍手で声援を送ってくれたのが嬉しかったです。レース中に観客とコミュニケーションを取れた感覚があって、それが嬉しかったです。

ーー橋本選手はいつも楽しそうな印象がありますが、いつも何かに楽しみを見出しているのでしょうか。

自転車を始めた高校生の時から「楽しそうに走るよね」と周りの人から言われることが多かったんです。その客観的な視点を聞くうちに、自分が楽しいと主観的に認識し始めた気がします。

ーー嫌な時もあるのですか?

起きた事柄に対して自分がネガティブに受け取った時が嫌な時なので、嫌だと思うかは自分がどう受け取るかで変わってくると思っています。今回も"メダルを持って帰ることができなかった"という結果の軸で見ると良くない結果でしたが、結果に対しての捉え方は自分次第なので、その中でも楽しさを見出してこれからも努力して行きたいと思っています。

ー兒島選手とペアのマディソンはどうでしたか?

全日本選手権以来の兒島とのペアでしたが、二人でトレーニングをやっていました。予選ではうまくいったのですが、決勝では体力削られてしまいました。初めて国際大会でのマディソンに出場できたので、いい経験になったと思います。

ーーチームパーシュートはもっとタイムが出せるという感触でしたか?

そうですね。今回は初めて一走を任せてもらえて、ゼロからの加速はそこまで得意ではなかったのですが、チーム内で任せられた役割に応えることが自分の役目だと思っています。自分に指定されたタイムよりも速く走ることが出来たのでこれからまたー走の練習を積んでいけばさらに速くなれると思います。

ーー第二戦のミルトンとネイションズカップの連戦が続きますが意気込みをお願いします。

メダルを持って帰って来れるように頑張ります!

ーー第二戦も応援しています。ありがとうございました。

「レース当日に奇跡的にコンディションが噛み合い、今までのトレーニングの成果が実った」今村駿介選手

ーー今村選手お疲れ様でした。マディソンの銀メダルやベルギーでのエリミネーション優勝など、本当におめでとうございます。今回の良い結果が出せた要因はどこにあったのでしょうか。

今までのトレーニングの蓄積がそのまま出せたのだと思います。最初のベルギーでエリミネーションを優勝できたことが自信につながって、そのまま良い調子を維持できました。

ーーベルギーでの調子の良さから弾みがついたのですね。

そうですね。自信を持ちながら走るのと、不安を感じながら走るのとでは違うので、不安が自信に変わったという感じでした。

ーー出発前から調子の良さは実感されてたのですか?

出発ギリギリまで、まだ足りないまだ足りないと思いながら追い込んでトレーニングをしていました。ただ、1週間前まで噛み合っていなくて公式練習までは体が重くて、「ここまで頑張ってきたのになんでだよ」と思ってました。

普段はマッサージも軽く調整程度なのですが、今回は前日まで強めのマッサージでほぐしてもらっていて..。前日寝る前まで体が重かったです。

「結局ここまでやって、コンディション合わせられなかった。」と思いながら眠りにつきました。

そうしたら当日奇跡的に、やっときたなという感じがありました。それまで脚の鈍さが残っていたのですが、当日の朝くらいから調子の良さを感じ始めて、レースを走り始めてからはいけるなと感じていました。

ーーネイションズカップで印象に残ったのはやはりメダルを取ったマディソンでしたか?

マディソンは嬉しかったですが、次の日のオムニアムが本番という気持ちはずっと持っていました。

マディソンは疲労が溜まっていたこともあり、窪木さんが展開を作ってくれていたので、自分は迷惑を掛けないようにという意識だったので自分の中で一番印象に残ったのはオムニアムですね。

ーーオムニアムはどんなところが印象に残っていますか?

一種目目のスクラッチで、序盤に前の方で動けていたことが気の緩みになってしまい、残り3周ぐらいからは集団の後方になってしまい、結果13位になってしまいました。

普段はスクラッチで良い順位を出すことが後半につながるので先行するが、守りに入ってしまった。

スクラッチで出だしが上手くいかなかったのは悔しかったです。出だしさえうまくいけば..と後悔が残ります。

ーーそれでも後の種目で追い上げましたよね。

そうですね。今までは巻き返すことができないなと思っていたので、前に比べると1種目1種目で動けることは実感してきているのでその点はよかったかなと思います。

ーーチームパーシュートはどうでしたか?

キツかったです。データを見ても、自分の中でも規格外の出力のパワーデータだった。コンディションはベストではなかったがもっと練習していきたいです。

ーー他の3人はまだまだタイムが出せそうという感想でしたが今村選手はどう感じましたか?

今回はチームパーシュートをメインにトレーニングしていた訳ではなかったですが、それでも出発前は練習していたので全くやっていなかった訳ではなかった。

ただ、チームパーシュートにそこまで力を入れてなかったのは他の国も同じなので、声を大にしていけるとは言えないが、まだ伸ばせるところはあるよねという感覚です。

ーー日本記録を出した2020年と比べて感触はどうでしたか?

その時は日本チームだけの状態でのタイムだったので、対戦相手がいればもう少し出せたかもしれないということはありますが、今回はある程度大きなレベルの大会で2本走って3分54秒を出せたのは、2年前からの成長を感じられました。

ーーそれは個々人のレベルが上がったからですか?

そうですね。エアロテストもやっているし、ホイールなどの機材が良くなっていることもあると思います。

メンバーとしては新しく兒島が入って、(橋本)英也さんもあまり団抜きに力を入れていなかったことも加味すると、このメンバーでこのタイムを出せたのは悪くないスタートだったかなと思います。

ーー個人追い抜きはどうでしたか?

「疲れが溜まってるぞ」と散々コーチ達にも言われ続けていたので「そうなのか..」と思って走りました。ただ走り始めたら日本記録も更新できるのではという感覚だったのですが、6周目ぐらいからどんどんラップが落ちてきて、悔しかったです。

ーー全日本トラックの時は連戦でも全く疲れを感じさせなかったですが、今回は疲労感なども違ったのでしょうか。

あの時は個人追い抜きに力を入れて練習していたこともありますし、タイムトライアルでのポジションに関してもギリギリで詰めているところがあるので取り組み方が違ったと思います。

コンディションなども含めて何が違ったのか、フォームやサドルの高さを見直したのですがそれはなかった。

ただ、一つ感じたのは、自分の体の柔軟性の割にサドルが高く、他の選手と比べて少し膝が曲がっているということです。なのでサドルを下げようかなとは思っています。

ーー今月TOJで今年のJプロツアーに初参戦となりますが意気込みはいかがですか。

最初の信州飯田コースははじめてのコースなので分からないですが、富士山は頑張って登る、相模原は大学時代に走ったこともあるコースですし東京はしっかりと狙えるコースだと思います。

ただ、東京ステージだけを狙うのではなく初日と2日目で脚を使って戦うコースでしっかりと戦いたいと思います。

ーーこれからも期待しています。ありがとうございました!

「トップレベルと戦っていくにはベースを二段階強化しないと」兒島直樹選手

ーー兒島選手お疲れ様でした。昨年の香港でのネイションズカップ以来の国際大会の参加ですが、世界のトップレベルの走りを体感されてどうでしたか?

レース種目、特にマディソンは本当にスピードが早くて、レースについていくので精一杯という感じでした。オムニアムでは落車の影響もありモチベーションが下がってしまっていたところもあったのですが、他の選手の走りは勉強になるなと思いました。

ーー具体的にどのような部分でしたか?

スピードもですが、日本人の走りと違って、アタックの抜け出しのタイミングや勢いの部分です。

日本のレースとは走り方も違っていて、ずっと早いスピードで流れていて、その中からタイミングをみて逃げていく選手が多くてすごいなと思いました。彼らが抜け出すタイミングでは自分もついて行きたかったのですが、脚がなかったです。

ーー兒島選手は昨年の全日本トラックではオムニアムで優勝されていますが、やはり国際レースと日本のレースとの違いはあったのですね。

そうですね。日本のレースでは強い選手数人をマークして走っていれば良いという感覚ですが、全然違いました。