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トランジット T20SCX 1998年 自転車メーカー初の『グッドデザイン大賞』受賞

トランジット T20SCXフランクフルト実用工芸博物館 "KATACHI FORM(2007)"にも展示

審査委員の評価

片持ちシャフトドライブ、カーボンモノコックフレームなどの思い切った設計により美しいシルエットを実現させると同時に、「人を元気にさせる」「人を楽しく愉快にさせる」などデザインが持つ最高の力を持ち得ている点を高く評価。(グッドデザイン賞審査委員会による評価ポイント)

「カーバイシクル」という新しいライフスタイルを提案

川端 真澄(当時:製品設計部) ・ 後町 守昭(当時:研究開発部)

シャフトドライブからのスタート

世界初の片持ち式シャフトドライブ、そして、カーボンモノコックボディ。「シャフトドライブ」とは、車軸(シャフト)を回転させて後輪を駆動させる方式。そのシャフトドライブ機構が、片側から後輪を支えているのが「片持ち式」の意味である。また、「カーボン」は炭素繊維で、軽くて強度があり、スチールやアルミよりも高価な素材。その素材を使って、一体成形でつくった車体が「モノコックボディ」だ。だが、たとえシャフトドライブやモノコックの意味がわからなくても、トランジットT20SCX(以下、トランジット)が、今までの自転車とはまったく異なる思想でつくられたものであることはすぐにわかる。スチールやアルミのパイプを溶接して車体をつくり、そこにドライブチェーンで駆動する後輪を両側から支えているのが普通の自転車。それに対して、チェーンがなく、特徴的なY字型フレームのトランジットは、一見して異彩を放っている。

この自転車の開発は、「シャフトドライブを使ってどんな自転車ができるか」、ということがスタートになり、社内の開発メンバーが、「自分たちが乗りたい自転車」を追求することによって生まれた。エンジニアの後町守昭は小さなタイヤ(小径車)にこだわったが、「当時、私は自転車レースに参加していたのですが、車に競技用自転車を乗せて、もう一台積もうとすると、小径車のほうが都合が良かったんです」という。デザイナーの川端真澄は「通勤で乗れる自転車がほしかった」と語る。「スポーツ車とママチャリというように、カテゴリーが両極端に分かれていて、自分が通勤で使いたい自転車がなかったのです。スポーツ車は手軽さがなくて、少し構える感じがありますよね。かといってママチャリで通勤するのはあまり楽しくありません。スーツでも乗れるし、ジーンズにポロシャツでもピタッと決まる。そんな、ウィークデーもウィークエンドも、カッコ良く乗れる自転車がほしかったのです」。シャフトドライブの利点は、むきだしのチェーンと違い、油汚れが服につかないこと。スーツで乗るにも最適だが、スカートの裾が気になる女性にも向いている。なぜ、女性向けの自転車も考えなかったのか。その問いに川端と後町は声をそろえて、「いや、だから、自分たちが乗りたいものをつくりたかったんですから」。

情熱が生み出したカテゴリー

自分の欲しいものをつくる。楽しそうでうらやましい話に聞こえるが、道のりは簡単ではなかった。世のなかに製品として出すまでの間、社内説得に2年あまりを要したという。「好きにやってるから、コストが高いんですよ(笑)。10万円を超す小径車は、なかなか納得してもらえませんでした」(川端)。「今までにないカテゴリーですから、販売セクションでは、用途がない、売り方がない、という反応でした」(後町)。そこで二人がしたことは、改良を続けながら、どんどん外部に見せて反応を得ることだった。自転車レースの会場で、あるいは、自動車のF1グランプリのブリヂストンブースで、東京国際自転車展でと、機会をつかまえては試作車を展示したり、試乗してもらったり。そのうち、会社への問い合わせもくるようになり、98年に350台の限定販売が決まった。「つくっちゃったなら仕方ないから、テスト的に限定販売しようか、というような決まり方でしたけど」と二人は笑う。だが、わずか一か月で完売し、この年の秋にはGマーク大賞も受賞して話題になった。トランジットの「新しさ」が世のなかに受け入れられた結果だ。

川端は「デザイン上は、スッキリ感にこだわった」という。チェーンのないシャフトドライブと、継ぎ目のないモノコックフレーム。その特性を活かし、スッキリとシンプルに。後町は、「変速機をどうするか悩んだのですが、思い切ってなしにしました。ギアをつけるとパーツがかさばって、コンセプトのスッキリ感に反するからです」。そのスッキリ感を象徴するY字型モノコックフレームは、乗り降りのしやすさを形で表現したもの。「普通の自転車のパイプフレームは、いってみれば『線の表現』です。それに対してカーボンモノコックなら『面の表現』ができるわけで、そこでも新しさを出せると考えました。乗り降りのしやすさを表現するために真んなかを下げることで、Y字フォルムが生まれました」と川端。

メカや形が新しいだけでなく、スポーツ車でもママチャリでもない、「大人が通勤にも遊びにもカッコ良く乗れる自転車」という新しいカテゴリーを実現したトランジット。市場の存在しなかったカテゴリーを創出したのは、開発者たちの「自分がほしいものをつくる」という、シンプルでゆるぎない想いにあった。

【出典元】
■ 書籍名 ニッポン・プロダクト デザイナーの証言、50年!
■ 発 行 株式会社美術出版社
■ 発売日 2006年2月10日
※公益財団法人日本デザイン振興会調べ

世界初の片持ち式シャフトドライブ

「トランジット」とは、「国際空港でのトランジット(乗り換え)」から引用して、他の交通手段から自転車へ乗り換える新しいライフスタイルをシンボル化した言葉

トランジットのイメージを決定づけるカーボンモノコックフレーム

自転車は機能部品の集合体。機能とデザインが不可分の関係にある