あんかーちょうちん
宮澤崇史

ANCHOR-CHOCHIN
自分の生きざまにコミットできているか?
vol.3
Photo by Kei Tsuji

ついに出てきた宮澤さんの黒い口。ウホッ、いい話! と喜んだもつかの間、話はなんだか宮澤さんのワンマンショーになっていきます。当時のチームメイト(今のチーム担当)曰く、これが宮澤教なんですと口を挟むほどの酩酊至言「お前は自分の生きざまにコミットできているのか?」あなたは果たして、できているか? まず心に問え。

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1+1の積み重ねしかない。魔法の掛け算なんてない。

——それでそれで?(ワクワク)

それでシンイチさん(福島晋一さん)にフランスの2月のレースで、「今回はミヤタカ(清水都貴さん)とタカシがエースになれ、お前のために走る」って言われたんです。それでレースをずーっとコントロールしてくれたんですが、結局集団から遅れてゴールしました。

終わった時に「エースって、そんなに簡単になれるもんじゃないんだよ」って言われたんです。エースがどんな苦しみの中にいるのか、アシストこそ理解しろ、って。オレ、それにものすごく感化されました。オレがその立場になるための最短距離とはなんぞや、って思ったんです。そんなこと言わせないための近道ってなんぞや、って考えたんです。

だからそのあと、すごい結果を出した。これだ、って思った得意なレースでは必ず入賞した。チームにエースとしてやってくれって言われる立場になるために。

あの時、自分が実際にエースを任されて、こうなるために生きているんだなと自覚した時に、その温度感の中で最大限チームに結果をもたらしたいと思ったんです。あの経験はとても心に響くいい経験だった。

でも次のレースから、アシストとして再スタートするんですね。その時からオレは、あのエースの温度感に近づくために、今日はエースのために何ができるんだ? って真剣に考え始めたんです。

チームの期待値の上を行って初めて、自分の達成感につながるってこと。賞金や契約金すらも、「自分の何に対して、どれだけの評価で、いくらなの?」って感じで考え始めました。自分たちが達成すべき目標はコレです。そのためにチーム内の各選手が最大限の努力をします。あなたの仕事はこの部分ですよね。であれば、あなたはどれだけの仕事ができるんですか? って。

仕事に対する自分のモチベーションと温度感を感じ取りつつ、与えられた仕事にコミットする。つまり必要とされることを、得意な事であれ、不得意な事であれ行い続けたのが、それが同時に自分がエースになるための1+1を毎日積みかさねる進化になっていたわけですよ。 今もそう。

自転車って面白くて、自分の力ってものには、ラインがあるんです。これぐらいならナショナルに勝てる、これぐらいならコンチネンタルの2クラスに、1クラスに勝てますよ、っていうラインがある。このラインには、1+1の積み重ねを続けて到達するしかないんです。そこに魔法の掛け算はない。

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——1円貯金みたいなもんですかね。毎日1円、でも確実に溜まっていくっていう。

たまに「どうしたら強くなれますか?」って聞かれることがあります。そんなの、その人の能力がわからないのに、魔法の掛け算だけを求められても答えようがない。

ただ、毎日1+1をコツコツ積み重ねている奴に、魔法の掛け算を求めている奴が挑んでも、勝てるわけがないんですよ。1+1を続けていた選手が、長所と短所をバランスよく発揮して結果を出すことがある。これが掛け算に見えるんでしょうね。でも1+1をやってない選手に、これを習得すればめっちゃ強くなる、なんてものはない。

選手として成り立つには、崖っぷちの緊張感も必要です。大切なのはその温度感なんです。例えばオレはずっと、浅田さんに「結果を出せなければいつでもクビだよ」って言われてた。その中でどれだけ自分を律し、自立できたか、ということなんです。

深く息ができるか。自分からしぼめてはいないか。

——常にクビを覚悟し己を律し、その温度感の中で自立せよッ。かっこいいぃ!

で、その自立ってなにかといったら、自分が与えられた仕事、やらなければいけない仕事に対して、自分がどれだけコミットできたかということなんです。

それは自分の中での目標の1歩先をクリアして、相手を驚かせ、数字に現れない部分を評価してもらうこと、なんです。その集合体がチームであり、チームの士気を高めていくんですよね、たぶん。

これ見てくださいよ。(宮澤さんTシャツを脱ぎ出す)

——なんで脱ぐんですか!(笑)

ほら、ここにある胸郭、これが柔らかくないと深く息ができないんですよね。でも、深く息ができなくても人間は運動できる。

中には、ハンドルを持った時に胸をしぼめてしまう選手や、動きが悪い選手がいる。しぼめると狭くなるんで息ができない。でもちゃんと動かせる選手って、深く息ができるんです。結局運動する上で、酸素供給量ってすごく大事で、いかに多くの酸素を多く取り入れるか、なんです。

その酸素の供給ルートを、自分から細くしてはいないか。そんな事ばかり、第2次ブリヂストンアンカーの時に、ミヤタカやユキヤ(新城幸也選手/ランプレ・メリダ)と話していました。

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——なるほど、よくわかったんで、もう着てください。後ろのお客さんコッチをガン見してます。

選手って結局、自分の成し遂げたことでしかないんです。ヤルことって、シンプルで、ストレート。 そのためにレース中の作戦なんかは頭の中でいろいろなシミュレーションをしてました。

例えばね、オレ、ツール・ド・おきなわで勝ったんですよ。盛選手(盛一大さん・元愛三工業レーシング)とユキヤと3名で逃げた時。ユキヤがアタックしたけれど逃げられなくて、浅田さんがスプリントで戦おう! って決めたんです。

そのとき、ユキヤにレース前、「もしスプリントになったら残り350mまで全力で引け、そしたらオレは勝てる」って言った。それだけしか言わなかった。並び順はユキヤ⇨盛⇨宮澤を想定していました。

350mって何かって言うと、350mまで時速50kmで引いたら、先頭に出た盛選手は速度を落とさなければならない。なぜなら350mからスプリントを開始したら後ろにいる自分にゴール前で刺される可能性があって……

……盛選手の横を通り過ぎる時には4km/hほどの速度差、1秒後には6kmの速度差。その差を残り200mで詰めるには……

——(長く解説が続く。まだシャツは着てくれない)

そんなシミュレーションをレース前に考えていました。出力を数値で表してました。

自分が勝つために、どういう戦略を立てるかという時点で、ここまでにこういうことをしてくれたらオレの勝ち、って言えたらオレの勝ちなんです。だからこそアシストは大事なんです。

95/100が失敗でいい。5の成功を育てて進化させろ

——(シャツをやっと着てくれた)

でね、選手の時に、常に自分の中に持っていたのは、自分の生きざまに対して自分が納得、コミットできているか、ということなんだよね。

自分の生き方に対して、納得の上限はない。だからオレの中での100点満点とは、

「今、自分の生きざまに確かにコミットできているのか」

この問いにYESと答えられることなんです。だからこそ、自分が目指すが明確化していない中で生きるっていうのは、そもそもが間違ってるッ!

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——おおおっ! 今、すごく心に響く一言いただきましたが宮澤さん、ロレツあんまり回ってませんよ!

それにさ、「なるべく間違えるな、失敗しそうならリスクは負うな」という教育自体が違うと思うし、それに気づいていない選手も多い。だから成功確率が80%ないと、行動を起こせない人が多いように感じるよね。

結局ね、経験を積んだベテラン選手でさえ10トライして、1つ、自分に合ったものを見つけるんです。それなのに、1トライに対して1を成功させようと右往左往している若い選手には、何してるの? お前どんだけの経験を元に1/1を求めてるんだよ? って思っちゃう。

もう失敗なんかしてもいいから、いろんな方法で考えながら99回投げて、1回でも良いフォームを感じた時に、もしかして、オレやったかも! って感じればいい。その成功した1球を忘れずに続ける努力ができればいい。

つまり生きざまっていうのは、「失敗をたくさんする中で揺るぎない信念を創造しろ!」ってことなんだよね。

結局オレがヨーロッパに行って、やってきたことってそれなんです。世界で戦おうと思ったら、失敗なんてつきものなんですよ。

でね、若いうちは失敗なんて、95/100が失敗でいい。5の成功を育てて、次のステップでどんどん進化させていくべきで。

100のうち、5の成功があれば、それは成功なんです。それがブリヂストン・アンカーにいたときの浅田顕のマインドなんです。ダメな時は、どうダメだったかを説明して、ちゃんと謝れればいい。許すのは自分。ごめんなさいを言って、次に絶対同じ間違いをしない事、これが大切です。

——「ごめんなさい」を言えるかどうか! それ、ぜひうちの奥さんに聞かせてやってください!

「失敗を恐れるな」とはよく言われるけど、「95の失敗を恐れるな」って言える人間ってあんまりいないよね。だから「3つやって1つは成功したらいいな」って、甘い考えを持ちがち。

じゃなくて、10失敗して、あれ、なんで失敗するんだろ、20失敗してなんかいい感じを掴んで、70回目に3つくらい良い連鎖が繋がって、あ、もうちょっとこうすれば、オレ、5つくらいは成功するかも! みたいなのがなんとなく繋がってきたなー、って中で、5/100を作れた人間って成功するんですよ。

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——じゃあ、宮澤崇史の95の失敗はこれまでさまざま聞いてきたとして、成功はなんだったんですか?

例のBS合宿で追い込み過ぎて泣いたこと、これが一番大きいかな。

オレね、トレーナーに、「宮澤さんは自分で自分をコントロールするのが不得意なので、誰か強い選手に付いてください」って言われたんです。だからオレも一年間、福島晋一と我慢しながら生活してた(笑)。

当時は心地よかったけど、毎日、自己否定する心との戦いでした。何年も積み上げてきた物を、全て捨てるということだからね。

例えばオレは、こういうふうに150kmとかのロングのトレーニングしたら、“次の日は軽いライドで休む”、って決め付けていたんですよね。そんな時でも福島晋一は休まない日があるわけですよ。

え〜、なんで休まないの? って心の中では思うんですが、そこは自分の中での正解ではなく、彼の正解の中で生きるのが、正解だと信じたんですよ。

なぜなら、そこが自分が一番苦手な場所だと思っていたから。それを認めることが、すごく大事だなって思ったんです。 自分の中での正解を押し通したくなった時、ちょっと待って、つばを飲み込むことを覚えたんです。

そしたら、そこから飛躍した。
飛躍したってことは、正しかったってことなんです。

受け入れがたいことを受け入れる、その方法とは!

それからは、「自分が正しいと思うことを突き詰めることが大事なんじゃない。受け入れがたいことでも、受け入れることなんだ」って考え始めた。自分が飛躍し、変化を起こすことに対して敏感になる、これがとっても大事なんです。

あのね、我慢することって、苦じゃないんです。暴れたくなるのを抑えるのは、簡単なんです。その方法はね。

——その方法とは!

「鼻息を荒くしながら寝ること」

——うひー!(笑)

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「フンフンっ! オレは! こう思うんだよな! フンフンっ!」って思いながらも寝れたら、受け入れられます。

サンドバッグを殴っている時点では受け入れられていないんです。でも寝れたら! それは受け入れている。

理不尽だと思うことでも受け入れて、寝れたら勝ちなんですね。受け入れられない時って、リミッターがかかっているんですよ。そのリミッターの解除が、つばを飲みこむこと。

つばを飲むことなんていくらでもできるんです。跳ね返すと、いつも同じことにイライラしちゃう。一回飲み込んでも、もし受け入れられなければ、弾き返せばいい。でも飲み込む前に弾き返してたら、自分の糧にならない。自分の中で飲み込んで、「あ、そうなんだっ」って受け入れられたら、それはプラスなんです、得なんです。

それって、1回できるかどうかなんです。1回できれば10回できる。でも1回もできない人は、いつまでも変化がないんじゃないかな……。

—— ……話が想像以上のところにまで行ってしまって、ちょっとこっちも酔いが回りすぎてきた感じです。そろそろ締めの言葉を頂いて、まずは中締めを……。

あのね、若者にはね、海外に行きたいんだったら、明日にでもスポーツバック持って行けよ、って言いたい。海外に行ってダメだったら、日本に帰ってくるか選手をヤメればいい。

フランスにいようが、アメリカにいようが、どこにいようが、あなたは今の温度感でこの先生きていけるのかどうか、それを問うてほしいんです。

「お前は、いまこの瞬間の自分の生きざまに、コミットできているか?」これがイエスじゃなければ、考えなおしたほうがいいと思う。

日本にいるのと同じように、リラックスして、自転車に乗って、遊んで、トラブルを解決して。「海外だから、これができない。海外だから、これをがまんしなきゃ」それじゃ海外で活躍していく自分自身の目標にコミットできていかないじゃないですか。日本と同じ温度感で生活していくことも海外では大切。そうすれば自転車にも集中できるし、生活が楽しくなってくる。日本にいなくてもいいや! って思える。

多くの友達ができて、レースの勝ち方やレースの走り方を教われば、1人で悩んでいるよりも数倍早く強くなれますよね。そして、小さくても1つでも多くの成功体験から、大きな成功体験につなげていける選手が増えてくれるのを願っています。

——ありがとうございます。そういえば、宮澤さんのニックネーム『Bravo(ブラーボ)』ってどういうことなんですか?

ブラーボって、オレがイタリア語を話せなかった時に、自分自身を、他人が認めてくれる最大限の価値のある言葉だったんです。タカシ、「お前今日の走りはブラーボ」だと。ボクにとってのキーワードなんです。その言葉を増やすことによって、自分の価値が高まるんです。ボクは、どういうことに対しても、素晴らしいっていう言葉を増やすことが、自分の使命なんです。

——自分が正しいと思うことではなく、受け入れがたいことでも、受け入れ、自分が飛躍することをに対して敏感になる。それが「今この瞬間の生きざまにコミットできているのか」という問いとなる。これが本日の宮澤教、主な教えでありました。

未来を見つめるヤングよ。そして過去にすがりつかないオールドよ。あなたがたは起こりうる95の失敗を恐れていやしないか? 宮澤さんは、あるいは今日も失敗してるかもしれませんが、その先にある5の成功を見据えて、自分の生きざまにコミットしているはずです。

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宮澤崇史
bravo代表。2008年北京五輪ロード出場、2010年全日本選手権ロード優勝。日本を飛び出て主に海外ロードレースを主戦場として活躍。肝臓移植から第一線の選手へと完全復活を遂げた唯一とも言えるスポーツ選手。2014年に選手引退後も、監督業、公演、レース解説、TV出演など幅広く活躍。その独特の表現と信念、経験と温度感、そして説得力に吸引力を加えたトークと知識で幅広く自転車レース界を飛び回る。
http://bravo-tm.com
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取材協力/ホルモン道場源氏
アンカーチーム員に長く愛され、 勝利の喜び、悔し涙といろんな悪口を言葉通りに立ち込める煙に巻いてきたホルモン焼き屋。そのホルモンはアンカー選手の血となり肉となり数々の勝利を共にメイクしてきたよう。
埼玉県上尾市谷津2-4-5 TEL: 048-773-9222
※飲酒運転は自転車であっても違法です。自転車の飲酒運転は絶対にやめましょう。