LONG RIDE HACHIJOJIMA ~東京離島地熱輪行~

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ここまで走っていてやっと気づいたのは、島に必須の「ビーチ」の不在である。火山島なので、海面から下も山が続いているようなもので、伊豆や丹後半島や三陸のような断崖絶壁が広がっていて、砂浜ができるようななだらかな場所がそもそもないのだ。加えて一年中風の強い地域ということもあり、波打際は非常にダイナミックである。ビキニは1回も見られなかったけれど、『ヴィーナスの誕生』の説話も納得な泡立つ大波が沢山見られる。そしてよく浴びる。

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海からすぐにジャングルが楽しめるような島なので、観光スポットとされる「裏見ケ滝」も本土の滝とはまったく風情の違うものだった。ここもアドリブでルートを逸れ、ロードシューズのまま、ちょっとしたトレッキングを試みた。山道の途中で唐突に滝が見える。小さいながらも、幅の広さと落差は十分で、歩きながら必要以上にミストの恩恵をうけることになった!老若男女がはしゃぐ場所だ。近くには温泉(水着使用の上混浴)と地熱発電所もある。発電所はなんと3,300kw出力可能で、島の最低電力需要に近い。最大電力需要の3割ほどにもなるそうな。

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ジャングル欲が高じて、山の深部に向かうことにした。日本のどこにも似ていない山道。多少ガレているほうが気分がでるというもの。植物は緑色をダダ流しにしていて、酸素も湿度も漂っているのが見えるほど濃い気がする。顔面にくらう蜘蛛の巣も丈夫だ。蚊も何度でも襲ってくる。最後に信号で止まったのはいつだっけ?
途中で蘇鉄の畑に出くわした。無罪を叫んで自害した僧を哀れんで流人が植えた蘇鉄の花が咲いた年に放免があった逸話から、蘇鉄は「御放免花」と呼ばれ大事にされているらしい。ちいさな物語に出会う。

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長く走っていてやっとお互いのペースもわかり、脚が揃ってくる。カーボンフレームやコンパクトギア、小さいアールのハンドルや心拍計などのおかげで、女性や幅広い年代の自転車乗りが増えた事が嬉しい。ライダーたちの関係性が昔と随分違ってきている。フィジカルなだけでなくソーシャルな知恵も必要になり、それは楽しい事でもある。仲の良いライドの友達がウイークデイになにをしているのか知らない事も多い。にもかかわらず、その人のある一面がチャーミングなため、また翌週のライドに誘い誘われる。

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夕方過ぎまで走りこんで、サイクリスト独特の日焼け跡(腕と脚の途中だけ黒すぎ)を増長させて地元の居酒屋で〆てみた。どのテーブルも豪快に呑んでいてワクワクする。観光客なんだから、ベタに「くさや、くっさ~」など一通りやってみて、素朴なヅケ握りの「島寿司」の美味しさにあらためて気づく。メダイ、カジキ、トビウオなどの他に岩海苔もネタに使っていた。青ヶ島と並び、焼酎は島の公式飲料のようなもので、普段はあまり飲まないけれど冒険してみた。ロコの味。そしてまた島寿司をオーダーしちゃう。

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日本一短い国内航空路線で、高温多湿でダイバー以外にあまり注目されていない八丈島。例のアメリカンな女将によると、自転車に乗るんだったら11月くらいが一番いいとのこと。雨も少なく、気温も20度位で安定しているのだそうだ。4,5年に一度は訪れたい島になった。

澤隆志
キュレーター/映像作家。2000年から2010年までイメージフォーラムでプログラム・ディレクターを務める。現在はフリーランス。ロッテルダム、ベルリン、バンクーバー、ロカルノ等の国際映画祭や、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館など国内美術館等にプログラム提供、イベント多数。

※写真では状況に応じライトやリフレクターなどの装備を外しています。実際の状況での判断に基づきご利用ください。

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